極上な彼の一途な独占欲
通話を終える直前から、呼び出せそうな子を頭のなかでリストアップする。デザイナーさんにも連絡し、すぐに出られるか確認した。


——慕われてましたよ、わかるでしょ?


わか、らな…くもない。私だってもう半年以上、彼と仕事をしているのだ。

だけどね、と誰にともなく言い訳しながら、サンドイッチをバッグにしまって駅まで走った。




「悪くない。だがこれだと動くたび服が車にさわる。もう少しタイトにしたい」

「はい。箱型のシルエット自体は、流行なので残してもいいですか」


伊吹さんが、サンプルを着たコンパニオンのひとりに視線を置いたまま無愛想にうなずく。デザイナーさんはトップスの脇をつまみ、ピンでマーキングした。

今見てもらっているのは、ガイドスタッフと呼ばれるポジションの衣装だ。ステージや受付には立たず、ブースの中に立って来場者の接客をする。

展示されている車を主役にするため、衣装のラインは極力シンプル。大きめシルエットのトップスにタイトなボトム、色は濃いグレーだ。

こうしたイベントのポジションには明確なランクがある。今回の伊吹さんのブースで言うと、ステージモデルは別格、ステージ上でプレゼンできるポジションがその次、ブースの顔である受付がその後に続き、最後がガイドスタッフだ。

これはすなわち、女の子たちの格付けでもある。オーディションで一括採用しつつも、立ち居振る舞いや対応力の優れている子から順に、いいポジションを勝ち取っていく。

彼女らにとっては、まさに身一つで勝負する、戦場なのだ。

ふと伊吹さんがこちらを見た。


「彼女の、カタログ情報の入り具合は?」


…頭にってことか。おそらく半分くらいだろうと思って、葵(あおい)ちゃんというコンパニオン本人に確認したら「ほぼ覚えました」とにこやかな微笑みが返ってきたので驚いた。意識が高くて感心する。


「そうか」

「あの、伊吹さん?」

「うちのラインナップの中で、最も最低地上高の高い車種は?」


突如彼から投げかけられた葵ちゃんが、戸惑いながらもしっかり車種名を答える。


「クーペタイプの全高は」

「1290」

「六気筒の車種は?」

「六気筒は…ありません」
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