極上な彼の一途な独占欲
今度こそ彼は声を出して笑い、整った前歯と、ちょっとぎざぎざした横の歯が見えた。ああ、顔立ちもどこか悪魔っぽい不敵さがあるなと思っていたら、この歯の形のせいだ。今わかった。


「俺は、それが悪いなんて言ったつもりはない」

「蓼食う虫も好き好きって言いますしね」

「卑屈なわりに、食われてる自信はあるんだな?」


顔が熱くなった。

にやにやとそれを観察する視線が憎らしい。

探して歩くのも面倒だと言って、迷わず伊吹さんが入ったのは、24時間営業のファミリーレストランだった。

あの伊吹さんがファミレス。

似合わなさに驚く私をよそに、席に収まった彼はさっそくメニューを見ている。


「ビールと…なににするかな」

「遥香と食事してきたんですよね?」

「まあな。でも食った気がしない」

「ああ…」


普段ならともかく、ステージ期間中の遥香は、モデルだけあって食事には気を使う。当然アルコールも控える。


「向こうが少食すぎました?」

「だってチキンサラダを頼んでチキンを残すんだぜ。メニューにグリーンサラダがなかったのが悪いといえば悪いんだが」

「いつもは食べるんですよ。仕事中だから、プロ意識で我慢してるんです」

「それは聞いた。たいしたものだと思う。が、俺だけ食うのも気が引けて、結局ほとんど残り物処理をしてた」


よほど窮屈だったに違いない。難しい顔をしてグリルメニューのページを開き「ステーキでも食うかな」とつぶやいた。

それを見ていたら急にお腹が減ってきた。真剣にメニューを見はじめた私を、伊吹さんがちらっと見て笑ったのがわかる。


「連れが大食い女だと気楽でいいでしょ」

「そういう意味で笑ったんじゃない」
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