極上な彼の一途な独占欲
「早いな」


ロビーのソファで新聞を読んでいた伊吹さんは、私を見て目を丸くした。

着替えずに寝ていたというのは隠し、「取り柄なんです」と胸を張ってみる。


「寝落ちしてたんだろ」

「…わかります?」

「なんとなく、気配で」


どんな気配だろう。なんとなく気になって自分を見下ろした私を、伊吹さんが笑った。新聞をラックに片付け、私を連れてホテルを出る。


「あの、こんな時間にお腹が空いたっていうのは」

「この時間まで俺がなにしてたか、知ってるだろ?」

「えっ」


一度部屋に戻ったらしく、伊吹さんは手ぶらだ。ハーフコートのポケットに両手を入れて、夜の街をさくさく歩く。


「あれ、私が隠れたの…見えてました?」

「見えてた。なんでわざわざ隠れたのかなと思ってた」


なんでと言われると、確かになんでだろう、と自分でも思う。

ふたりに声をかけたってよかったのだ。遥香はちゃんと、見えないところでという約束を守っていたわけだし、行ってらっしゃいとでも言ってあげればよかったのだ。


「…見られたくないかと思って」

「そうだったらあんなところで待ち合わせない」


その通りですね。

どこへ向かっているのか、迷いのない足取りで少し先を行く伊吹さんが振り返った。その顔は楽しげに微笑んでいる。


「面白くなかったんだろ?」

「…別に」

「認めたらどうだ」

「30代に片足突っ込んでるようなのより、やっぱり瑞々しくてきれいなほうがいいのねって思っただけです」

「そこ根に持ってたのか」
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