極上な彼の一途な独占欲
室内はヘアメイクの真っ最中で、みんな真剣に鏡を覗き込みながら元気な挨拶を返してくれる。

化粧前のひとつには遥香が座っており、私に気づくとひらひらと手を振ってくれた。手にはヘアアイロンを持っている。


「今日、髪の毛巻かずにストレートで行こうと思うんだけど、いい?」

「いいよ。みんなつい巻いちゃうから、むしろ目立っていいかもね。あんたの髪、きれいだし」

「サンキュー」


パチンと音がしそうなウインクをしてみせる様子は、いつもと変わりない。

私はみんなに先ほどの話をした。


「というわけで5分前に話を始められるように集まってね。今日が終われば会期も折り返し。気を緩めず行こう」

「はいっ」


いい返事を聞きながら、自分にも言い聞かせた。

気を緩めずに行こう。




「天羽、今時間あるか」


みんなが交代で昼休憩に入りだした頃、伊吹さんが少し離れたところから声をかけてきた。「はい」と答えた私に、ブースの外を指さしてみせる。


「じゃ、ちょっとつきあえ」


言い終える前にもうどこかへ向けて歩き始めた彼に、小走りで追いつく。


「どちらへ行かれるんですか?」

「神部氏のブースを見たい」


なるほど。


「でも、おひとりで行かれたほうが向こうは歓迎しますよ」

「俺はコンパニオンの業界には明るくない。お前がいてくれたほうが心強い」


長い脚で、ざくざくとカーペットを踏みながら、前を向いたまま。

放たれたそんな言葉にすら、私の胸は鳴ってしまう。
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