極上な彼の一途な独占欲
「あら伊吹さん、いらしてくださったんですね、ようこそ!」

「すみません、混まないうちにと思って来たつもりなんですが、やっぱりこちらのブースは来場数が桁違いですね。いつもこのくらい?」

「ええ、お陰様で。ご案内しますわ、こちらへ」


予想した通り、神部の歓待ぶりはすごかった。そしてさらに予想通り、伊吹さんの横にいる私に目を留めると、唾でも吐いてきそうな風情で素早く顔をしかめてきた。

仕方ないでしょ、私が無理についてきたわけじゃないよ!

今日の神部は珍しくシックで、黒いミモレ丈のワンピースに黒いボレロ。足元はなんて上手に"抜き"を作るのかとうならせる、ヌーディなベージュのバレエシューズだ。

ヒールがないので伊吹さんより少し低いくらいの背丈。遥香と並んでいるのを見たときにも思ったけれど、伊吹さんの洗練された容姿は、こういう特殊なのと並んでさえまったく霞まない。

時代の変化と共に男性コンパニオンのニーズも増え、うちの会社でもメンズモデルやタレントの卵たちに声をかけ始めている。伊吹さんがあと10歳若かったら、まさにこういう人材が重宝されそうだよね、なんて考えていたところに、ものすごい衝撃が来た。


「いったあー!」

「ぼーっとしてんじゃないわよ!」


軽く数歩よろけるくらい吹っ飛ばされた私に、神部が怒鳴る。


「なんのためにくっついてきてんのよ! ちゃんとあたしと会話して、話ふくらませて、伊吹さんに情報を差し上げなさいよ!」

「はあい…」


奴の言う通りなので、痛む腕をさすりつつ素直にうなずくと、神部の向こうにいる伊吹さんがにやにやしながらこちらを見ているのに気づいた。

すぐにそれを感じのいい笑みに変えて、神部に話しかける。


「天羽さんとは仕事で?」

「ええ、狭い業界ですから、新規参入は噂になるんです。敏腕社長と元気のいい女の子がやってる会社ができたって、四年くらい前かしら、話題になって」

「なるほど」

「がむしゃらで、でも不思議とセンスがよくてね。この業界ではとても珍しいことなんですけど、たいした敵も作らずにすくすく育って。それをまあ先達として見守ってきたと言いますか」


よく言う。

神部と私たちに縁ができたのは、向こうの顧客がうちに乗り換えたのがきっかけだ。腹を立てた神部は事務所にまで乗り込んできて、うちが別に小狡いことをしたわけでもないと知ると、『あらそう』とけろっとして帰っていった。

それ以来なんとなく、顔を合わせるたび口げんかする仲。
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