極上な彼の一途な独占欲
その日は目が合えばそらし、顔を見ればそむけ、できる限りつんけんした態度を取ってみた。

普段あまりこういうことをしないので、初めて知った。これって心を強く保たないと、気持ちが折れそうになる。

明日からまた怒涛の週末が始まる。その前に調整やメンテナンスはできるだけ済ませておきたい。

午後から研修でお世話になった接遇やナレーションの講師の先生に来てもらい、ショーの後半に向けて改善すべき部分を指摘してもらう。出番の終わった子から控え室で次々トレーニング。

そんなことをしているうちに時間はどんどん過ぎ、慌ただしくブースの周りを走っているとき、いきなり腕をぐいと引っ張られた。

そのまま後ろ向きに数歩引きずられ、暗いところに連れ込まれたと思ったら鼻先でドアが閉まる。

えっ、ここどこ。


「なにヘソ曲げてる」


頭の上から声がした。

首をねじって背後を見上げると、笑いをこらえているような様子の伊吹さん。その顔にちらちらと、色のついた光が反射する。

そうか、ここ、メインステージのLEDスクリーンの真裏だ。

ステージ側には基盤のようなものが見上げる高さに積み上がっており、向かい側は壁。その間にかろうじて人がひとり通れるほどのスペースが続いている。ドアで出入りできるものの、設営とメンテナンスくらいにしか使われない空間。


「曲げてません」

「嘘つけ」


ステージで流している音楽が、びりびり響いてくる。

暗い、狭い場所で、私と伊吹さんは半歩ほど距離を置いて向かい合った。我ながらふてくされた顔になっていると思う。

スーツ姿で腕を組む伊吹さんが、おかしそうに笑った。


「気に入らないことがあるなら言えよ」

「あのですね…」


わかってるでしょう、と言いかけてはっと気がついた。さては誘導だな、これ。

『誰が"懐きそうで懐かない"なんですか』とでも噛みついたら最後、『お前のことを言ったつもりはなかったんだが』とかわされ、私が恥をかいて終わる。その流れだ。

危ない危ない。

私は、ちゃんと気づいた自分の賢さに胸を張りたい気分で「なんでもないです」とすっとぼけてみせた。
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