極上な彼の一途な独占欲
ふとなにかが終わりのときを告げたように、私たちは同時に離れた。

私は両手をポケットに入れたまま。彼は右手を、私の頬に当てたまま。

見つめ合ううち、やがて伊吹さんのほうが耐えきれなくなったらしく、照れくささに負けてくすっと吹き出した。

手を私のうなじにすべらせて、ぎゅっと自分の胸に押しつけるように引き寄せる。伊吹さんのコートの、布目の肌触りと男の人らしい香り。

右手が私の首の後ろをくしゃくしゃともてあそび、髪にキスが降る。

そんな仕草は、気恥ずかしくて顔を見せられないのだと言っているも同然で、私は胸がいっぱいになった。


「伊吹さん」

「ん?」

「明日、楽しみです」


耳のあたりの髪に、唇の感触。

それから「俺もだ」という素朴なささやきが、冬の空気を震わせた。


* * *


「どうしたんですか美鈴さん、ご機嫌」

「えっ」


久しぶりにオフィスを訪れたら、私を見て日代ちゃんが目を丸くした。

慌てて壁の鏡で自分をチェックする。別に普通だ。


「そう?」

「いいことありました?」

「それなりに」


郵便物がデスクにこんもり積み上がっているのを、ひとつひとつ慎重に開ける。月末だから大事な連絡も多い。


「今日、お休みですよね?」

「うん、ちょっとここ始末したらすぐ出てく。なにかある?」

「大丈夫ですよ。ゆっくりオフを楽しんでください」


頼もしく笑ってくれる日代ちゃんに、私も笑顔を返した。
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