クリスマスが終わる瞬間も
クリスマスが終わる瞬間も
きらきらと輝く光が視界一面に広がる。細かく震えるようで、それはちかちかと眩しい。でも、どうしてかわからんけど心惹かれてまう。そういう魅力が、ある。

うちの目の前には、息を呑むほど綺麗な夜景に、贅沢の限りを尽くしたディナー。暗い海に夜景が映り、ゆらゆらと揺れる光景はいくら見ても飽きることはない。

────せやのに。


「はああ……」


向かいに座る男に視線をやり、重たいため息。黙々と料理を口にする様子は素っ気ない。もうちょい愛想よくできひんのかな、こいつは。


今日は12月24日。恋人たちのクリスマスイヴ。

うち、樋口 唯(ひぐち ゆい)が特別な夜を共に過ごしているのは28年もの付き合いになる幼馴染の長谷 直人(はせ なおと)。


残念ながらうちにはクリスマスを過ごしてくれる恋人はおらん。それはうちだけやなくて、直人もってところには救われとるけど。

でもこの年になっても相手がいないのには正直焦る。


うちと直人は幼稚園から高校までおんなじという驚異的な腐れ縁。何回もクラスが一緒になって、出席番号順に並ぶとたいていうちのいっこ前やから背の高い彼は邪魔で邪魔でしゃーなかったわ。

そんなん言うけど、まぁなんだかんだで直人のことは嫌いやない。むしろ誰より信頼していて、なんかあったら1番に頼る存在なんや。

そして直人が文句を言うことはあっても断ったことはない。思春期の時でさえ距離が開くこともなかったし、仲よしなんよね。


「ため息つくなや。巻き込まれてんのは俺やぞ」
「ご、ごめんやーん」


黒髪の奥からじろりとにらまれて、うちはへらへらと笑う。本気じゃない謝罪に直人はふんと鼻を鳴らし、なめらかな動きでナイフを入れた。


わざわざ幼馴染とこんなええとこのホテルで顔を突き合わせ食事をしとるんは、1年前のうちの決意が原因。

もうええ年やし結婚を前提に恋人が欲しいなぁ、なんて。そう思ったうちは来年こそは彼氏とホテルでクリスマスディナー!とそのまま憧れのホテルに予約を入れた。

真っ赤なタイトワンピースは背中がレースになっていて大人っぽく、とびきりのパンプスにあわせて完璧に仕上げたのに。


その結果が今。うちがいくつになっても能天気であほで、どうしようもないからか。彼氏ができることはなく、とうとう直人に泣きついたってわけ。

まぁ誘った時は散々な言われようやったけど。


あほちゃうか!
彼氏もおらんのに女が予約すんな!
そもそもどんだけ高いとこ予約しとんねん!

せやしごめんって。
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