不器用な彼氏
自分の気持ちの変化に初めて気づいたのは、それから3ヶ月が過ぎた8月頃だろうか。

アイツのところに来た業者の女が、熱中症で具合悪そうにしていたから、応急処置として保冷剤を渡してやったことがあった。

取り立てて何の意味もなく行った行為だったのだが、そいつが帰った後、アイツに『名前教えましょうか?』と言われた時、何故か、カチンときた。

俺がそういう目で業者を見ていると思われたとかじゃなく、なんでお前にそんなこと言われなきゃならねぇのか?という、苛立ちからだ。

よく考えたら、この頃から、アイツに対しての感情が、職場の同僚のそれとは、微妙に変わってきていた。

当然、そんなことなどあるわけねぇと、むりやり自分の気持ちに抗って、却ってアイツに厳しく当たったりしたこともあった。大したことでもないのに怒鳴りつけて、自己嫌悪に陥ったこともある。

しかも、俺に叱られ落ち込むアイツを、東が慰めてるのをみて、ますます苛立ったりもした。後で思い返すと、我ながら、子供じみた行動だったように思う。

本当は薄々自分の気持ちに気づいていたのかもしれない。
だが、どうしても認めたくなかった。

確かに、この自分が職場の女を好きになるなど、絶対あり得ないと思っていた。ましてや同じ課で、同じ歳の同僚なんて、ありえねぇ。

今まで付き合ってきたどの女とも、全くタイプが違っていて、どう考えても、自分とアイツじゃ合わないに決まってる、と決めつけていた。

何度も繰り返す戸惑いの中で、いくら考えても、答えは同じになり、結局、自分のアイツに対する気持ちは、仕事に慣れていない同僚に対する“情”に違いないと、気持ちを摩り替えることにした。
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