不器用な彼氏
そのまま数か月が過ぎ、12月も半ばを過ぎたころ。
あの嵐の夜が訪れた。

冬の嵐の夜に突然起きた停電と、想定外のアイツの行動。

確かに子供の頃から雷の類が苦手な俺は、いつもの冷静さが欠けていたとはいえ、あの状況でいきなり抱きつかれた時の衝撃は、完全に俺の思考を麻痺させた。

暗闇の相乗効果と、アイツから漂う柔らかな女性特有の香りに、抱きしめ返さなかったことが、我ながら奇跡だった。幸い、そこが職場だったことで、頭の片隅にあった自制がかかってくれた。

俺は、気を許したら吹っ飛びそうな理性を保ちながら、できる限り冷静に対処したつもりだった。

なのに、アイツときたら、こともあろうに、俺が雷が怖いだろうからと、更に身を寄せて子供を抱きしめるようにしやがる。これには、羞恥心と男としてのプライドで、抑えていた感情が崩壊した。

気が付くと、自らとんでもないことを口走っていた。

その後のことは、実のところ良く覚えていないが、動揺する俺とは対照的に、アイツはやけに冷静だったように思う。信じがたいことに、アイツが自分も俺と同じ気持ちだと言った。

いったいどういう流れでそうなったのか、いまだに謎だが、あの日から俺とアイツの交際が始まってしまった。

同僚と付き合うなど、正気の沙汰ではなかったが、交際すると決まった瞬間から、戸惑いとは裏腹に、抗えない別の感情が徐々に沸き上がり、それは、時間と共に大きくなっていく気がしていた。

それは今まで感じたことのない甘ったるい感情で、それが何なのかわかる前に、すぐにでも“あれは間違いだった”と言って、固く口留めしてしまえば終わったものを、結局、俺はそうしなかった。いや、少なくとも最初はそのつもりだったんだ。
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