不器用な彼氏
嵐の夜から二日後、職場を離れ、『これからのことについて話そう』と呼び出した居酒屋で、先に着いた俺は、素面では到底対応できないと、アルコールを1杯だけを身体に流し込みながら、今日はどうやって、一昨日起きたことを、“無かったこと”にできるか、思案していた。

ところが、少し遅れてきたアイツを一目見て、考えが一変してしまった。

それこそ、理由は自分でもよくわからないのだが、俺と対面して、目の前で緊張しまくっているアイツの姿を見て、どうしようもなく手放したくなくなった。

俺の放つ言葉の一つ一つに、アイツはいちいち反応し、顔を赤らめる。
今までつきあった、どの女にもない反応で、新鮮で面白くて仕方ない。

結果的に、これは本気で付き合うしかないなと、覚悟を決める一方で、目の前でコロコロ表情を変えるこの女を、なぜだかいつもと同じように、安易に抱いたりなど、してはいけない気がした。

とはいえ、俺もアイツもそれなりの大人で、今までのことを考えたら、手を出さない自信は無い。

そこで、職場恋愛などしたこともない俺は、それを理由にいくつかのルールを決めて、それを約束させることにする。そうでもしなければ、自分を自制することが、できそうになかったからだ。

案の定、その日、いくらかの酒を飲み、ほろ酔い気分で店を出て駅まで向かう道で、俺がクリスマスに仕事で会えないというと、怒りもせずに悲しい顔をされ、気づいたら、今さっき自分で決めた“外での接触禁止”のルールを犯して、アイツの手を握っていた。

しかも、“手を握る”というたったそれだけで、バカみたいに高鳴る心拍音と幸福感。

“もしも、この先コイツを抱くことになったら、俺は冷静ではいられないかもしれない”

そう考えたら、ここで手放してやったほうがコイツの為かもしれないと、一瞬このまま逃がしてやろうかとアイツを見たら、俺を見上げるように、子犬のような眼で見つめられ、どうにも、また手放せなくなる。

もう、半ばヤケクソな気持ちで、どうにでもなれと思った。
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