不器用な彼氏
職場での俺たちは、今まで通り、同僚として変わりなく接していた。

互いに、もう空気が読めない年齢ではない。アイツも、さすがに、大人の対応をしてくれる。

それよりなにより、毎日背中合わせで仕事をしているだけで、俺自身が心地よい満足感が得られるのが、なんとも不思議だった。

もっとも、アイツには、そんなこと絶対に知られるわけにはいかねぇから、わざと突き放すような態度をしたことも、一度や二度ではない。

おそらく周りの人間には、あまりの冷たい態度に、俺がアイツを嫌っているのだろうとすら、思われていたかもしれない。

この頃の俺は、初めて感じるいくつかの感情に,どう対応したらいいのか、苦悩し続けていた。

そもそも俺らは、職場の同僚ではあるが、恋人でもあるのだから、もっと互いを知るために、プライベートな時間を一緒に過ごす必要があったはずだ。ところが、俺は、それをかたくなに拒否し続けた。

できるだけもっともな理由を見つけては、それを言い訳にし、共に休みの日も、毎日職場で会っているのだから…と、極力職場以外で会うことを避けていた。

会うのは、平日の仕事帰りに軽く飲むか、休日に会うとしても、夕方予定がある日の日中に、短時間だけ…といった具合に。

もちろん、二人で会うのが嫌だったわけじゃない。むしろその逆だ。

アイツは、公私の区別をしっかりつけていて、社内ではあくまでも同僚の顔しか見せないように、徹底していて、その分プライベートで会う時は、完全に無防備だった。

仕事帰りに会う時など、そのあまりの変わりように、面食らう。おそらく無意識だろうが、俺に話しかける声やしぐさ、見つめてくる視線一つ一つに、職場でのそれとは全く違って見えて、そのギャップは、毎度俺の心を激しく揺さぶる。

俺だけに見せてくれているだろうその無防備な姿に、自分自身がどんどん強く惹かれていくのが、怖かった。

こんな感情は初めてだ。

アイツはごく自然に切り替えているのだろうが、俺にはそんな器用な真似など、できるはずもない。
いつもみたいに虚勢を張り、自分を保つことだけで、精一杯だった。
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