不器用な彼氏
そんな時、アイツがたまには一日デートしたいと、懇願してきた。

あまりわがままを言わないアイツが、わざわざ指定までしてきた期日を聞いて、その意味を理解する。

2月14日。
世間一般に、女が好きな男にチョコを渡すという、あのくだらないイベントだというのは、さすがの俺だって知っている。

付き合い始めて約2か月が絶ち、いつまでもこんな風に避けるわけにもいかず、俺は渋々ながら了承したが、嬉しそうに顔をほころばせるアイツを見て、正直、自分自身も浮足立つ気持ちを内に秘めていた。

近場で誰かに会うのはマズいからと、東京のお台場まで出ることにし、更に交通手段も、周りをいちいち警戒しなくて済むように、姉貴に頭を下げて、車を借りた。

女と出かけるのに、車を借りるなど初めてだったから、姉貴にどれだけ面白がられたことか。

やれ食事をするならあの店が良いとか、景色はここが良いんだとか、挙句に、車を停める駐車場まで、絶対ココに停めろだとか、うるさくて仕方なかったが、借りる手前グッと耐えることにした。

終わってから思うが、あの日のデートは、(アイツはどう思ったかわからないが)俺にとっては、この先何度デートを重ねても、忘れられないものになった。

二人で一緒に過ごす時間がいつもより長かったせいか、アイツの見せるストレートなの言動や態度の前に、いつの間にか、常に張ってきた虚勢がもたず、ボロボロと剥がれ落ちていき、気付いたら普段では絶対口にしないことも口にしてしまっていた。

映画館の中でなど、アイツがとんでもない勘違いをするもんだから、つい堪らず肩を抱き寄せ、その手でアイツの手を握ってしまった。

俺は、咄嗟に取った行動で、手を握ったまでは良かったが、離すタイミングを逃してしまい、このまま繋いだままでいいものか?と、映画そっちのけで考察していると、驚くことにアイツはその小さな手で、俺の武骨な手のひらに指を絡め、しっかりと握り返してきやがる。

薄闇の中で、照れながら、アイツが小さく“恋人繋ぎだよ”と口にする。
無意識だろうが、本当にアイツは俺を分かっていない。

繋いだ指と指の間で、ほんの少し直に触れるその部分でさえ、耐えがたい欲情にかられる。
結局、映画の内容などさっぱり覚えていなかった。
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