不器用な彼氏
映画館を出て、姉貴に勧められたレストランで食事をし、アイツに切望されて行ったカフェを出たら、もう午後9時をとうに過ぎている。

あまりに早く感じる時間の経過に、俺は驚いた。

正直、今まで女と二人で、こんな長い時間一緒にいたことが無い。
そもそも、俺は相手を楽しませようなどと、いちいち気を使ってしゃべったりなどしない。

だから、大抵は、女の方が途中で根を上げ、帰りたがった。俺が女でも、俺みたいな男と長時間一緒にいたら、苦痛以外の何物でもないだろう。

この日も、最初は、もしかしたらコイツも同じように苦痛なのかも知れないと気になったが、終始にこやかで楽しそうにしているアイツを見ていたら、いつの間にか、自分自身が時間が経つのを、忘れてしまっていた。

“もう少し、一緒にいたい”

この期に及んで、そう思う自分がいて、我ながら呆れてしまう。

とはいえ、時刻も遅く、これ以上引き延ばす理由もない俺は、自然と駐車場に向かうしかなかった。
途中、アイツが海浜公園の砂浜に降りたいと言うので、少し遠回りになるが、立ち寄ることにする。

まだ2月の寒空の中、夕闇も深まり、浜辺に降りると、パノラマの夜景。

最高のロケーションだが、俺は嫌な予感がした。この時間になれば、周りは家族連れなど皆無で、浜辺にいるほとんどが、寄り添いあう恋人同士。

案の定、手を繋ぎたがるアイツを即座に拒否する。

“誰かに見られたら…”など、本当はそんな理由なんかじゃなく、今コイツに触れたら、俺は絶対的に冷静さを欠いていた。残念そうに後ろを歩いてくるアイツを、時々振り返りながら、自問自答を繰り返す。

“こんなに苦しいなら、いっそ抱いてしまおうか…”と。



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