不器用な彼氏

『ずいぶん煽ってくれるな…』

思わず口に出してしまったかもしれない。
アイツに、直に触れることの許しを得たのだから、容赦はしなくていいってことだよな、と勝手に解釈させてもらう。

俺はアイツに近づき、ずっと触れたくて仕方なかった髪に触れる。たったそれだけで、高まる心拍数。
その滑らかな指通りをゆっくり滑らせて、髪の内側に隠れていた耳に指の先が触れると、一瞬アイツの表情がこわばり、軽く抵抗されるが、もう遅い。

手のひらで、アイツの右頬を包み込み、出来る限り優しく口づけた。

さっきのキスもそうだったが、なぜこんなにもコイツの唇は柔らかく甘いんだ?
たかがキスなのに、堪らなく沸き立つ高揚感。

すぐ離れるつもりでしたのだが、あまりの気持ちよさに、自制が利かなくなる。

自然と深くなるキスに、もっと抵抗されるかと思ったが、すんなり受け入れてくれているのが、また嬉しくて、更に堪能したくなった。

途中、息をするために開いたアイツの口から、苦しそうな吐息が漏れ、アイツの呼吸するタイミングを奪っていたことに気づくと、やっと我に返り、名残惜しいが、ゆっくり解放してやる。

途端、俺の胸に倒れ込むアイツを、つぶさない程度に、ぎゅと抱きしめた。

少し無理をさせたのかもしれない。
俺より幾分も小さい身体を抱きしめながら、そのぬくもりに、愛おしさが増してくる。

『…カイ君、暖かくて気持ちいい…』

安心しきったアイツが言い、そりゃ俺のセリフだと苦笑する。正直、今すぐにでもその先を知りたいのだから、あんまり安心しきられても困るのだが。

その後、ちょうど駐車場に新しい車が入ってきたのを機に、俺たちは離れ、帰るために車に乗り込む。車に乗り込んでからも、しばらくその余韻が続き、身体中が発熱したように、熱かった。

不意に助手席に座るアイツを見たら、頬を赤く染めたままトロンとした眼で俺を見つめてる。

…コイツこんな顔も出来るのか?と、ドキリとした。

最も、俺がそうさせたのだが、いつもはどちらかと言うと、実年齢より幼い顔のアイツが、完全に女の表情になっている。

こんな顔、職場でされたら溜まったもんじゃねえ。
アイツに釘を指しながら、沸き上がる自尊心と独占欲を、我ながら傲慢だなと思う。
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