不器用な彼氏
この日を境に、俺は自分の中のアイツに対する気持ちと、逃げずに真摯に向き合うことを決めた。

いい加減、自分がアイツに惹かれているのは自覚している。

ただし、まだ自分の感情だけが先走り、アイツが俺をどう思っているのか?どうしてほしいのか?など、わからないことだらけだ。

アイツに限っては、過去の女との経験は、何の役にも立たなかった。

すべてが手探りで、初めてだ。そもそもこの俺に、女心などわかるわけがない。未だ、アイツのすべてを手に入れていない状態でこれなのだから、先が思いやられる。


アイツがここに来てもうすぐ一年になる4月初旬。

正規の定期異動を前に、俺は、係長の江守から、諸事情で突如空きの出てしまった、広域建設部への内部異動を打診された。この業務に就いて、まる4年。

個人を相手にする今の業務より、大手企業を相手にすることの多い広域の方が、俺には向いているのでは?という、上からの勧めもあったらしい。

確かに、今の仕事にもだいぶ慣れてきたところで、正直もう少し極めたい気持ちもあったが、いろいろと考えた末に、受けることにした。

こういう噂は広がるのが早いもので、アイツの耳にもすぐ入り、珍しく業務時間内の職場だということも忘れ、廊下の隅で詰め寄られる。しかも、いつも職場では見せない素のアイツで、今にも泣きそうな顔で見つめられ、こんなに動揺するなら、もっと早く言うべきだった、と後悔した。

別に秘密にしていたわけじゃないが、なんとなく言えずにいたのは、やはり自分自身も多少の迷いがあったからだ。

仕事とプライベートは、ハッキリ分けるに超したことはない。

ところが、俺らの場合、同じ職場の同じ部内の同じ業務。しかも、デスクまで背中合わせと言う近さ。いくら職場恋愛とはいえ、この近さは、交際期間が長くなればなるほど、結構辛い。

この時点で、職場内で、アイツと何も無いように普通に接するには、俺の気持ちが動きすぎた。

アイツには言えなかったが、仕事中に後ろで交わされる、アイツと東の会話が気になって、単純なミスをしてしまい、古賀主任のチェックで引っかかること数回。

我ながら、自分に嫌気がさすほどだ。実のところ、このタイミングでの内部異動は、俺にとっては願ったり叶ったりだった。

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