不器用な彼氏
ところが、その日の夜の電話で、俺たちは初めてケンカをした。

原因は、アイツのくだらない誤解だったが、電話の途中でブチ切れられ、そこまで怒ることかと、こっちも頭に血が上ってしまった。

女にブチ切れられるのは、今までも、良くあることだった。

大抵の原因は、マメじゃない俺にあったが、俺自身、それに対して弁解したり、修復しようと努力したりなどしたことがない。

そもそも、そうなる原因が出てくるころには、俺の方が、付き合っていること自体が面倒になっていて、今覚えば、当時はそれを機に、別れ話がでることを、逆に望んでいたのかもしれない。

ただし、今回のは、今までのそれとは、全く違う。

ケンカの原因自体はともかく、少なくとも俺は、現時点でアイツと別れる気は、毛頭ない。

とはいえ、自分から謝罪するなど、断固としてする気はなかった。絶対的に、俺は悪くない…という事実に加えて、アイツの方から謝ってくるに違いないと、信じて疑わなかったからだ。

ところが予想を反して、一週間が過ぎても、アイツからの連絡がなかった。
苛立ちと共に、沸き上がる一抹の不安。

まさかと思うが、あんなくだらないことで、この関係が終わる…ということもあるのだろうか?
いや、過去の経験を考えれば、ありえない話ではない。

そう思っても尚、低次元なプライドが邪魔して、自分から歩み寄る気にはなれなかった。

風の噂で、TMの業務を、アイツが森下に教えていると聞いた。
その為に、確かに忙しいのかもしれないが、これだけ時間が経っても連絡1本寄こさないなど、ますます分からなくなる。

そんな矢先、研修後もちょくちょく広域に顔を出す森下の忘れ物を届けるために、階下に降りると、2階の小ホールで、森下に詰め寄られているアイツを見かけた。

どうやら、彼氏がいるのか?と聞かれているようだ。

それこそ適当に誤魔化せばいいものを、アイツは、森下の執拗な追及に困り果ているようで、思わず助けるために、声をかけてしまった。

結局のところ、素直じゃない俺は、救い出す為の、うまい言葉が出て来るわけでもなく、また辛辣な言葉と態度で、アイツを傷つけた。
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