不器用な彼氏
日没が迫る備品庫の薄闇の中で、しばらくアイツを抱きしめながら、幸福で穏やかな時間が流れた。

…と同時に、この時何故か、この腕の中の女を、どうしようもなく無性に抱きたいと、願った。
決して欲情したわけじゃない。

あふれ出るこの想いを伝えるのに、もう言葉ではうまく伝えることができない。

俺は遠まわしに、その意図を伝えると、アイツは笑って快諾してくれる。

よくよく考えれば、交際してから半年以上経つのだから、年齢的にも、そういう関係になっていても、全くおかしくは無かった。

終業時刻が近づき、そのことに気がついたアイツは、俺の腕から離れ、慌てて業務に戻ろうとする。
俺は、すかさずその行く手を抑え、退路を断った。

アイツは、それに気づくと、驚いて『ふざけないで』と睨むが、ふざけているつもりは全くない。
ここが職場であることも、充分わかっている。

それよりも、久しく触れていなかったアイツに、どうしても、直に触れたかった。

アイツはそこが、職場内であり、且つ業務時間内であることが気になって、その行為に集中できないみたいだったが、それが却って、俺を興奮させた。

ついでに、ずっと気になっていた子供じみた呼び方も辞めさせ、強引に俺の名前を呼ばせる。
アイツは照れながらも、小さく俺の名前を呼び、その声の甘さに、またもや俺の理性が侵される。

ゆっくりと触れたアイツの唇はやはり熱く、その甘さについ没頭してしまい、結局この日は、終業時刻が過ぎても、アイツを簡単に離すことができなった。

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