不器用な彼氏
『…お前は、あるみたいだな?』
『え?』
『こういうところ』
『昔…ね、女友達ともよく行ったし』
嘘をつくのも変なので、正直に言いつつ、『あ、ここは初めてだよ』と、付け足す。
何だか言い訳したみたいになってしまったけれど、案外、海成は気にしていないのかもしれない。
『前、動いたぞ』
少し前の列にいた、幼稚園の遠足らしき団体が一気に進み、少し詰まっていた入り口が、スムーズに流れだす。ボーとしていたわけじゃないけれど、後ろから少し押されて転びそうになり、とっさに海成につかまると、『ほら』と、手を差し伸べられた。
嘘…コレって、もしかして…?
『…繋いでいいの?』
『嫌なら別にいい』
人の流れに沿って、また前を向いて歩きだす海成の手を、慌てて捕まえる。
瞬間、目が合い照れ笑いするも、軽くため息を突かれ、そのまま何事もなかったように歩き出す。もちろん手は解かずに…。
改めて、その手をぎゅと握ると、軽く握り返してくれるのが、たまらなく嬉しい。
こんな外で、しかも堂々と手を繋いでくれるなんて、初めてで緊張する。
『…ムフフ…何か照れるね』
『アホか』
だって本当のデートみたい…いや今までだって、デートはデートだったけど(笑)
館内に入って、先ずは薄暗い水族館ゾーンで良かった。私、きっと馬鹿みたいにニヤニヤしてる。