不器用な彼氏
廊下に引き詰められた絨毯の上を、サクサクと慣れない草履で、フロントに向かう。

フロントに出る手前で、太い円柱の前に、腕を組んだまま佇む海成を確認すると、驚く顔が見たくて、後ろからそっと近づき、『お待たせ』と声をかけた。

振り返る海成は、私の姿を見た途端、『お前…』と言ったきり次の言葉が出ない様子。

『驚いた?』
『いや…、それより時間無えから、行くぞ』
『あ…うん』

明らかに一瞬驚いたはずなのに、存外そっけない態度を取られ、肩透かしを喰らう。

“う~ん…そんなに、魅力なかったかなぁ…?”

浴衣の女子力アップ効果に、結構本気で期待していただけに、正直少し落ち込んでしまう。

海成は、私を待つ間に、海岸までの行き方を確認していたらしく、フロントの横の一段下がった場所に広がるティーラウンジに向かい、その向こう側に見える緑豊かな庭園に出るためのガラス扉を迷いなく開け、外に出る。

陽が落ちた庭園は、暗闇の中、所々ライトアップされ、外に出た途端、むせ返るような深緑と混じって海からの潮の香りが押し寄せた。

海成はドアを抑えたまま振り返ると、『足元気を付けろ』と、手を差し伸べてくれる。

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