不器用な彼氏
『ありがとう』
出された手のひらに捕まり、一歩足を進めると、草だと思ったそこは、幅1メートルほどの石畳。
よく見ると、その石畳に沿って、小さなガラスの入れ物に入ったキャンドルが、行燈の代わりに、等間隔で連なっていた。
『この石畳の上をずっと進むと、海岸まで降りられるらしい』
『そうなんだ』
一瞬離れた手は、向きを変え再び繋がれ、ゆっくりと歩きだす。
浴衣を着ているせいか、歩幅が小さくなり、早くは歩けないけれど、意外と歩きづらくないのは、海成が私の歩調に合わせてくれているからなのだと、途中で気が付いた。
入り口に【この先海岸まで直通】と書かれた看板のある、緑のアーチを超え、鬱蒼とした森を数十メートルほど進むと、突然目の前が開けて、眼下には熱海の海岸が見える。
さすがに今日は花火大会ということもあって、上から望む砂浜はたくさんの人で埋め尽くされ、海岸を囲むように行き交う道路も、車のテールランプが連なって美しい弧を描いてる。