不器用な彼氏
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……?
波の音…?
どこからか、心地いい音が聞こえる…

朝…なのかな?
素肌に触れるシーツの滑らかな感触が、気持ちいい…

まだ、起きたくない…もう少しこの柔らかな光の中で微睡んでいたい。
そっと、誰かが私の髪を撫でてる。

『…わりぃ…無理させたな…』

彼の申し訳なさそうな声が、耳元で聞こえる。
…謝らないで…無理なんかしていない。そう答えたいのだけれど、意識はまだ夢の中を彷徨う。

『…まだ眠いか?』

低く、囁くような声。

『ん…もう少し…』

…もう少し寝かせてほしいと、すべてを言えないまま、また眠りに落ちてしまう。意識が完全に水面下に落ちる前、額に触れた唇のぬくもりと、共に落とされた愛おしい声音。

『菜緒…愛してる』

その瞬間に満ちる、最上級の幸せ。


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