不器用な彼氏
急いでシャワーを浴び、着替えてから、朝食のバイキングに在りつけたのは、午前9時を10分ばかり過ぎていた。

時間も遅いので、空いていると思っていた会場は、同じように遅く起きたらしい家族連れや恋人達で溢れかえり、のんびり食べる雰囲気ではなく、軽くサラダとパンと紅茶だけいただくと、早々に引き上げる。

時刻は、10時過ぎ。

『お姉さんに、お土産、買って帰らなきゃね』
『駅前の商店街、寄ってみるか?』

言ってから、理香子さんのことを思い出したのか『お前が嫌じゃなきゃ』と、付け加える。
確かに、ココからも近くて、何でもそろっている、駅前商店街は、当初からの予定に盛り込まれていた。

不思議と、今、理香子さんのことを聞いても、何の不安も沸かなかった。

『うん。私もお土産見たいし、行ってみようよ』

そう答えると、旅行用のバックのチャックを閉め、立ち上がる。

明るい日差しをたくさん受けた部屋は、また昨夜と雰囲気が変わって、いつかみた雑誌に載ってた、バリ島の水上コテージに似てる。

開け放たれた、窓からは、キラキラと光る、水面が見え、微かに潮の香りが、心地良い風に乗って流れてくる。

『行くか?』
『うん』

昨夜の花火大会に着た浴衣の入った、大きめのバックを持ち上げると、海成が黙ったまま、私からバックを取り上げ、持ってくれる。

部屋の入り口まで行き、バックを持っている海成の代わりに、ドアを開けようとドアノブに手をかけると、何故か、その上に海成の手が重なる。

『海成?』

振り返ると、不意に落とされるキス。
昨夜から何度も受けたにも関わらず、その感触は私の心をキュンとさせる。
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