不器用な彼氏

『こんにちは。お店のお手伝いかな?』
『穂香?』

店内から、お店の店主らしき男性が出てくると、こちらに気が付き『あ、いらっしゃいませ』と、にこやかに話しかけてくる。

『すみません、なんかご迷惑おかけしました?』
『いえいえ、ご挨拶してくれただけですよ』

穂香ちゃんと呼ばれたその子は、てててと、私を周り、隣に立つ海成の足元に立つと、もう一度にこやかに『いらっちゃいませ』と、微笑む。

海成は、取り立てて視線を合わすでもなく、不愛想に『ああ』一言。

小さい子供相手に、もう少し愛想よくできないのかしら、と思っていると、こちらの意に反して、穂香ちゃんは海成の足元から動かず、おそらくお父さん仕事の真似なのだろう、『おまんじゅういかがでしゅか?』と、可愛らしい笑顔で、接客してくれる。

『驚いたなぁ、いつもなら、知らない男性には、怖がって全く近づかないのに』
『そうなんですか?』
『ええ。まあ、これくらいの子はだいたい人見知りするんですけどね。うちはこういう仕事だから、他のお子さんよりは、人見知りしない方なんですけど、どうにも初めて会う男の人は、苦手のようで…』

店主は、30代後半くらいの、人の良さそうなスラリとした男性で、そんな娘の姿を、一つの成長としてとらえているのか、目を細めて眺めている。

海成はというと、まとわりついて離れない、穂香ちゃんに、にこりともせず淡々と返答をしているが、穂香ちゃんの方が負けじと、くっついて離れない。

子供に対しての接し方も、大人に対してのそれと、ほとんど変わらないそのスタンスが、逆に良いのだろうか?

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