不器用な彼氏
『そう、別れる代わりに、これから付き合う女には、絶対名前で呼ばせないでほしい…って』
『それって…』
『子供じみてるでしょう?でもあの時は、例え別れても海成の中で、自分が特別な女性として、ずっと残っていたかったのね』

“若気の至りね”、と恥ずかしそうに笑う。
でも、その目論見は、あながち外れていない。

実際、理香子さんは、彼の中で、心に残っている女性の一人であることは、間違いないのだから。

『もちろん、そうやって条件出しながらも、そんなの真面目に守るわけないと思ってたの。でも、それをずっと守るところが海成なのよね』

思わず、うなずいてしまう。

嘘を付くのが苦手な彼が、理香子さんの出した条件を受け入れたのだとしたら、きっとどんな条件でも、貫ぬいたに違いなかった。

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