不器用な彼氏
この時間、ちょうどさっき参道ですれ違った、団体の参拝者が、帰った後のようで、比較的待たずに、お参りすることが出来た。

数段の石階段を上がり、本殿の前に立つと、心を静めて、2拝2拍手1拝。
願いを込めて、祈りを捧げる。

“この先…ずっと海成と一緒にいれますように…”

一瞬、境内の喧騒が消え、風になびく木々の擦れあうサラサラとした音だけが、聞こえてきた気がした。

そう、思いたいだけなのかもしれないけれど、心なしか、柔らかな空気に包まれ、この願いは受け取られたように感じる。

ゆっくり目を開けると、やはりそこは境内の中で、ざわつく喧騒が戻ってくる。

『いくつ願い事、頼んだんだ?』

先にお参りを終えた海成の元に戻ると、呆れた顔で聞いてくる。

『願い事は、もちろん1つよ。大事なお願い事だから、丁寧にお願いしてたの』
『くだらねぇ』
『海成は、何を願ったの?』
『そんなもん、人に話すもんじゃねぇだろ』
『それは、まぁそうだけど…』

たった今、神様に願ったことを、心の中で、思い描きながら、海成も同じ願い事をしてたら嬉しいのに…と、思う。

『何だよ』
『別に…』

ジッと見つめるも、ポーカーフェイスを決め込む海成の心の内は、どうにも、わからない。

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