不器用な彼氏
『あぁそのことか…情報早ぇ~な。情報源は翔子さんか諏訪ちゃんあたりか…?』
『ふざけないで!』

関東圏内の広域で、街レベルの大きなプロジェクトなどを手掛ける部署の社員が、一人体調を崩して退社せざる得なくなり、急きょカイ君に白羽の矢が立ったとのこと。

頭1個分は裕にある身長差。真剣な眼差しで、にらみつけるように見上げると、さすがの彼も観念したように

『まぁな。係長に打診はされてる』
『…受けるの?』
『まだわかんね~けど…業務命令なら仕方ねぇだろ…って、オイ、そんな顔すんなよ』
『だって…』

ここは職場なのは充分わかってる。シャツをつかんだ手に力を込めて、込み上げるものを、必死にこらえる。

『何だよ。もう一年経つんだし、仕事は覚えただろ?』

黙って首を振る。

『それに俺がいなくたって、東だって直さんだって…』
『そんなこと関係ない!カイ君わかってないよ!』
『ばか!その呼び方やめろっ、ココ職場だって…』
『バカはカイ君でしょ!』

ぴしゃりと言い放ち、これ以上言葉を続けたら、堪えているものがあふれてしまいそうで、うるんだ瞳で黙って睨みつける。

…分かってる。こんなのただのわがままだってことは、でもやっぱり…

『さみしくなるよな…』

思いがけない言葉が彼の口から発せられた。

『カイ君…』
『俺も同じ気持ちだから、心配すんな』

そういうと、自分の胸元にあった手をそっと握り返してくれる。私の両手をすっぽり包み込んでしまう大きな手が、子供の手のように暖かくて、ドキッとした。

職場では強面で、近寄りがたい彼のこんな顔を見ると、たまらなく切なくなる。

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