プレミアムステイは寝不足がベスト

ラウンジでの飲み放題からこの部屋に帰ってきて以来、彼女が泣くのはこれで3度目だ。

彼女は2週間前、学生時代から8年付き合った年上の恋人と、悲しい別れを迎えた。

私も彼とは何度か会ったことがある。

見るからに誠実そうで落ち着いた雰囲気の男性だ。

アクティブで少し危なっかしい彼女をしっかり守ってくれそうだと頼もしく思っていたし、うまくいっている間は実際にそうだったのだろうと思う。

もう何年も前から結婚秒読みだと言われていて、彼女がそれを強く望んでいたことは、私が一番よく知っている。

だけど、彼女の希望は叶わなかった。

「私さぁ、『一緒にいると楽』って言われて、喜んでたんだよね。私の前では素の彼を見せてくれてるんだって、ポジティブに捉えてさぁ」

鼻声で紡がれる彼女の言葉が、ゴージャスな部屋に切なく響く。

「うん」

「でも違った。私の前ではとことん楽するって意味だった。私に対してはなにも頑張るつもりがないって意味だった」

いつもハキハキ喋る彼女の泣き声を知っているのは、たぶん、彼と私のふたりだけだ。

そしてその彼の前で泣くことは、もう二度とない。

「うん。あんなクソみたいな男、私が代わりに思いっきりひっぱたいてやりたい」

彼女を傷つけた彼に対して沸き上がった怒りを、抱いていた枕にぶつける。

それなりに強く拳を叩きつけたけれど、枕は瞬時に形を取り戻した。

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