夢がかなうまで

15年ぶりの地元は少し活気づいているような気がした。
衰退していくばかりと思っていた地元が予想外に活気づいていたことで、私は少しだけ「地元を見捨てた」罪悪感が緩むのを感じた。

「カヨ!」
ホテルのロビーで迷っていると、同じクラスだった美香が私に手を振った。

昔は細い方だった彼女は今、ふっくらとしていかにもなお母さんになっていた。

「カヨ、あんたぁ雑誌に載ってたの見たよぉ!」
美香は私の背中を叩き、そして私の靴を見て感心したようにため息をついた。

「すっかり垢抜けて。誰かわからんくらいや」

「なんも変わらんて」


懐かしさにほっとして会場を見回すと背の高い痩せた女がいた。誰だっただろうかと考えていると、美香が私の腕を引いた。

「あれ、日名子や」


私の記憶の中にいる日名子は、同級生の中では飛びぬけた美人だった。しかし、女にはその面影は少しも残っていない。15年もたてば人は変わって当然なのだろうが、そのあまりの変わりようはまさに別人といっていいほどだった。

「あんまり関わらんほうがええで。
あの子、五年ほど前に帰ってきたんよ。男子たちが言うには私らに見せられんようなビデオにも出たみたいやで」

私ははっと息を詰めた。
なんとなく感じていた不安が突然重みを持って私の前につきつけられた感じだった。

「あの子、子どもがおるんよ。あの子の親もまだ働いてるし、預け先に困ったみたいでムリに同級生の家に置いていってさァ。私も日名子にお金貸してェ言われて子ども抱えてかわいそうやから一万ほど貸したらまた一万って。きりがない。まだ一円も返してへんしな」

美香は腹立たしげだった。

「……そっか……」
曖昧に言葉を濁してもう一度、日名子がいた方向に目をやると、もう彼女の姿はなかった。

それから10分ほど私は旧友たちと話をしていたが、話題のほとんどは子どもと夫の事だった。未だ独身の私は想像力を働かせてなんとか話についていったが、次第に、私が知っていたころの……セーラー服を着ていた彼女たちの面影がどんどん薄れ、まるで知らない人に混じって話をしているような気になった。

「カヨも仕事で成功したんはええけど、早く結婚して子ども産みぃや。自分の子てかわいいもんやで」

さっきまで夫と子どもの愚痴を言っていたのに、皆が口をそろえてそう言った。
愚痴は言っても彼女たちは幸せなのだ。人に自分の生き方を勧めてしまうほどに。

そう思うと、私は無性に寂しくなった。
私の知っている故郷はもうここにはない。まるで浦島太郎だった。


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