夢がかなうまで
私は友人たちの輪を抜けた。
屋上に上がると、思わず声が出そうなほど強い、海からの風が私の髪を乱した。
十五年ぶりに見るイルミネーションは相変わらずで、すべてが少しずつ変わってしまった町の中で唯一変わらないものの様に思われた。
そこに、日名子がいた。
「久しぶり」
私は頷いて彼女の横に並んだ。
「みんなからいろいろ聞いたやろ」
日名子は少し笑いを含んだような声で言った。
「私なァ、……やっぱり無理やった。親や同級生が言うたとおりになってしまったわ」
「そっか……」
「意地でも帰らんてつっぱって、仕事がなくなってキャバクラで働いて。そのうち子どもができて……。
子どもてお金かかるなあ。ひとりで産むて決めたときには、そんなこと想像もつかへんかった……」
「うん」
「あっちこっちに無理やり子どもを預けて働いてたら、とうとう児童相談所に通報されてなぁ。……子ども、今は施設におるんよ……。
電気の止まった部屋の中で、クリスマスやのにケーキもなくて、冷やご飯を食べてる子どもを見たら、産まんほうがこの子は幸せやったかもしれんて思てな……でもそんなこと私だけは言えんしなぁ」
彼女は私が何か言うのを恐れるように話し続けた。
「あんたは偉いなあ。ちゃんと、夢を叶えたんやな。
私な。もしあんたに会ったら嫉妬すると思ってた。けど。
私は……あんただけでも立派になってくれて、……なんかそれがすごい嬉しいんや。……頑張ったのは私やないけど」
冷たい夜風が私達のコートをはためかせた。
「今日、あんたに会えてよかった。
さ、私と一緒におったらハブられるから、先に帰りや」
ハブられたところでなんだというのだ。
私は冷え切った彼女の右手をつかんだ。
「約束、おぼえてる?」
私の言葉に、彼女は不思議そうな顔をした。
「ここに泊まる約束や」
私はお金持ちではない。地元の人たちから見れば立派でも、私はただの会社員だ。
けれど、私は今夜どうしても日名子をこのまま帰らせたくなかった。
「そんな古い約束……。もう忘れて」
「約束は約束や」