【短編】クラブ・ラグジュアリフロアで逢いましょう
ようやく自分の順番になる。

「え? 高層階のラグジュアリフロア?」
「申し訳ございません」

そのスタッフは頭を下げた。シングルがなければツインでもいい、1泊したいと告げると、もう満室とのことだった。もともと人気のあるホテルだったとはいえ、平日なのに、と驚いた。

「1室も?」
「はい。この天候で延泊されるかたも多く、空いているのは会員制の高層階のみになっております」

会員制の高層階……。恐る恐る値段を尋ねると、通常のツインの4倍ほどした。会員制なので予約は会員優先だが、ビジター料金を支払えば一般客も宿泊可能とのこと。値の張るだけあって部屋は広く、ベッドもキングサイズ、調度品もアンティークで落ち着く部屋だとスタッフは説明した。会員しか入れない最上階のバーやフィットネスクラブ、プールバーもある、と。

ボーナスもはいったことだし……。普段頑張っている自分へのご褒美としてその部屋を予約した。

私はオフィスに戻り、仕事を片付けた。再びホテルに戻るときには歩道も真っ白になっていた。転ばないようにヒールを垂直に降ろしながらゆっくりと歩く。いつもは残業帰りのスーツたちに占領されている歩道もガラガラ。ビルの軒先にある自販機も寂しく光を放ち、その先のコンビニも暇をもてあました店員がぼんやりと立ち尽くしている。

ホテルの玄関で頭と肩に降り積もった雪を払う。指先はかじかんで感覚をなくしていた。目の前のロビーの明るさにほっと息をつくが、中の異様さに目がいった。

スーツを着たビジネスマンが床に座り込んでいる。ソファに横になっているひとも。

自動ドアを抜けてロビーに入ると、中は騒然としていた。夕方に来たときに聞こえていたBGMもざわつきで消されている。スタッフに事情を聴くと、電車が止まり、足止めを食らった人たちにロビーを開放しているのだとか。ビジネスマンがほとんどだが家族連れもいた。すでに毛布が配られ、それぞれに休んでいる。そんなひとたちを横目にちょっぴり申し訳ない気持ちで私は高層階に向かう専用エレベーターに乗り込んだ。
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