【短編】クラブ・ラグジュアリフロアで逢いましょう
到着した先はクラブ・ラグジュアリフロア専用のロビーだった。やわらかい絨毯、間接照明の穏やかな光、ほんのり漂う桜の香り。冬の東京にいることを忘れてしまう。重厚感のあるアンティークなソファでは恰幅のいい白髪のビジネスマンたちが談笑していた。このフロア専用のフロントでチェックインの手続きをし、部屋に入った。

広めの玄関の向こうには20畳はあろうかのリビング、中央にはソファセットがゆったりと置かれていた。窓辺にいき、白のレースカーテンを開けると雪は相変わらず大きな塊で落ちている。眼下に広がる夜景に息をのんだ。ビルや家の屋根は白く、明かりに照らされて幻想的な光景。こんなきれいな夜景……。オフィスの近くにこんな素敵な空間があったなんて。

とりあえずリフレッシュしようと備え付けのミニ冷蔵庫を開けた。そこにはクウォーターサイズのシャンパン。飲みたいけれど、栓を開けるのが大変だ。あとでスタッフに開けてもらおうと再び冷蔵庫に瓶を戻し、代わりに缶ビールをつかむ。

ソファに腰かけ、クラブ・ラグジュアリフロアの利用案内をめくった。25階、つまりロビー階にあるプライベートラウンジではコーヒーや紅茶、そして軽い食事やホテル専用スイーツが自由に楽しめることになっている。隣にはプライベートバーもあり、ウイスキーやカクテル、日本酒など様々なアルコールが用意されているらしい。フィットネスルームとプールバーもあり、もちろんこれらはクラブ・ラグジュアリフロアに宿泊するものだけが利用を許されている。

プールにいってひと泳ぎしよう、そしてジャグジーにつかろうか。こんな雪の日に水に飛び込む大人もいないだろう……都会のおしゃれな空間を独り占め、悪くない。

窓のそとの雪をぼんやりと眺める。ひと足早い自分へのクリスマスプレゼントだ。

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