ひとりのためのクリスマスディナー

 Salade et soupe 

「若月君。窓際の彼女」
同僚にそう声をかけられたのはパントリーに並ぶサラダにドレッシングをかけていた時だった。うちのレストランでは生野菜の歯ごたえを損なわない為に接客係が直前にドレッシングをかける。
「クリスマスにお一人様なんてすごーい」
「おい」
からかいを滲ませた声に不快感を込めて窘めたが彼女は堪えていないらしい。含み笑いで俺の瞳を覗き込んだ。
「それにしても気合いいれたよね。一番高いコースでしょ?」
彼女が言いたい事もわかる。最高級ディナーは一人二万円を超える。上客が頼むのが主で今夜も数出ているわけではない。
そんなコースを頼む“お一人様の彼女”は予約時からスタッフの興味をそそっていた。
だから今晩、こんな会話がされるだろうことは予想はついていた。
「お客様に聞こえたらどうするんだ。うちの信用に関わる」
「ホールじゃないから平気よ」
ホールとパントリーの間は目隠しはあるものの扉は無い。だから、声が全く聞こえないとは限らない。
一流ホテルのレストランスタッフが客の噂話なんて許される事ではない。
「やめろ」
仏頂面で一言残し、サラダとスープを片手にパントリーを後にした。
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