副社長は甘くて強引

「……最後に風呂には入ったのはいつ?」

「えっ?」

 私の肩から顔を上げた副社長の思いがけない言葉を聞き、心臓がドキリと跳ね上がる。

「最後に風呂には入ったのはいつなのかな?」

「……おとといです」

「……」

 私から足を一歩後退させた彼の冷ややかな視線が痛い。

「だって昨日はいろいろとあって……でも今は冬だし、汗かいてないし……」

 副社長の耳には、私の必死の言い訳は聞こえないようだ。

「今すぐ風呂に入るんだな。そうすればそのひどい顔も少しはマシになるだろう」

「ひどい顔って……」

 ひと晩中、泣き腫らした顔は、たしかに見苦しいのかもしれない。でもひどい顔っていうのは言いすぎじゃない?

 ムッと頬を膨らませていると、副社長が玄関のドアノブに手を掛ける。

「あっ! ちょっと待ってください!」

「……」

 彼は私の制止する声など気にも留めない。玄関のドアを開けて靴を脱ぐと、部屋にすばやく上がってしまう。

 散らかり放題の部屋を見られてしまうなんて、なんたる失態!

 ショックを受けつつも、副社長の後を追った。

 彼は部屋の入口付近で呆然と立ちつくしている。目の前に広がった惨状に驚いているのだろう。

< 102 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop