副社長は甘くて強引

 トリートメントをして蒸しタオルで包み込んだ髪の毛が、艶と潤いを取り戻す。ボディソープをたっぷり泡立てて丁寧に洗った体は、さらりとして気持ちいい。温めのお湯に肩まで浸かり、体と心がホッとほぐれた。

 もう頭は痛くないし、体も軽い。睡眠を取って、お風呂に入ってリラックスしたからかな。

 そんなことを考えながら着替えを済ませるとバスルームから出る。まだ濡れている髪の毛をタオルで拭っていると、キッチンのほうからなにやら音が聞こえてきた。

「副社長! なにしているんですか!?」

「なにって見ればわかるだろう?」

 副社長の言う通り、彼がなにをしているのかは一目瞭然だ。だから私が言いたいのはそういうことじゃない。

 ハートジュエリーの副社長という立場の彼が、ただの販売スタッフである私のウチのキッチンでどうして洗い物をしているのか、ということが言いたいのだ。

「もう、今すぐやめてください!」

 彼のもとに駆け寄ると、急いでお湯を止める。

「あ、なにするんだ。あと少しで終わるのに」

「あとは自分でやります。ありがとうございました」

「いや、たいしたことじゃない。それから畳んだ服はクローゼットの前に置いた。ゴミも簡単に分別しておいたから」

 ヒヤァッ!

 洗い物だけでなく、こんなことまでさせてしまった……。

 のんびりとお風呂に入っていた自分を呪う。

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