副社長は甘くて強引
「どうぞ」
「ありがとう。ん……なるほど」
副社長は私が手渡した指輪を右手の親指と人差し指で摘まむ。そしてペリドットの指輪をじっと見つめた。
「先月、キミの販売成績が最下位だったのは、陽斗と別れたから?」
「……」
入社以来、販売成績が悪かったことはない。それなのに陽斗と別れた途端、最下位になってしまった。プライベートのことを引きずり、仕事に影響を与えてしまうなんて、社会人失格だ……。
副社長の質問に答えられずうつむく。
「どうやらキミには社員教育が必要らしいな。この指輪はしばらく俺が預かっておくことにしよう」
えっ? 社員教育ってなに? それに指輪を預かっておくって、どういうこと?
理解不能な副社長の言葉に戸惑いつつ顔を上げる。
「困ります!」
あの指輪は私にとって大事なもの。陽斗と別れたとはいえ、思い出がたくさん詰まっている。
しかし彼は声を荒らげて動揺する私のことなど気にも留めない。
「これを返してほしいなら、明日俺に同行するように」
「同行ってどこにですか?」
「それは明日のお楽しみだ」
副社長は意味がわからないことを口走りつつ、私の目の前にペリドットの指輪をチラつかせる。
これみよがしな態度を取る彼が腹立たしい。副社長って見た目はイケてるけれど、性格は最悪だったんだ。
昨日とは人が変わったような身勝手な行動を取る副社長に憤慨(ふんがい)しながら、ペリドットの指輪を奪い返すために手を伸ばす。しかし彼は指輪を持った手を掲げてしまう。