副社長は甘くて強引

 見上げるほど身長が高い彼に、こんなことをされたら、もうお手上げだ。

 ひとまずここは、冷静になろう。

 大きく息を吐き出す。

「副社長、私、明日は仕事です」

「仕事は休んでいい。販売成績最下位のキミが抜けたからといって、ショップの営業に差しさわりはないだろ?」

「……」

 副社長は口もとを緩ませて、この状況を楽しんでいる。

 この人、意地悪だ……。五年前の紳士的な態度とは大違い!

 本当ならば無礼な副社長の頬を叩いて、ペリドットの指輪を奪い返したい。でもハートジュエリーの副社長である彼に暴力をふるったら、クビになってしまうかもしれない。路頭に迷うのは絶対に嫌だ。

 唇を噛みしめて、込み上げてくる怒りを必死に堪える。

「呼び止めて悪かったね。それじゃあ明日楽しみにしている」

 副社長はそう言うと踵を返す。そして通用口からあっという間に外に出ていってしまった。

 自分の思い通りに人を動かすことのできる彼は、次期社長にふさわしいのだろう。でもこんなやり方で強引に人を動かすのは間違っている。

「もう!」

 副社長に振り回されたことを悔しく思いながらエレベーターに乗り込む。そして〝閉〟のボタンを爪が白くなるほど強く押した。怒りの矛先をエレベーターのボタンに向けるなんて我ながら情けない。そう思いながら、エレベーターの壁に寄りかかる。

 ペリドットの指輪をはずすのは、陽斗への未練を断ち切れたときと決めていた。それなのに、こんな形で指輪をはずすことになるなんて……。

 私から強引に指輪を奪っていった副社長を、恨めしく思った。

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