副社長は甘くて強引
翌日。いつもと同じように業務に励む。しかし来店客に商品をすすめても、ちっとも購入してもらえない。
私のなにがいけないんだろう……。
相変わらず伸びない販売成績に頭を悩ます。
「はぁ……」
大きなため息を吐き出すと、同僚の上田さんに声をかけられた。
「大橋さん、お昼先にどうぞ」
「あ、はい。ありがとうございます」
販売スタッフが全員一緒に食事に行ってしまったら、ショップに誰もいなくなってしまう。だから私たちは交代で昼休憩を取るのだ。
「いってきます」
「はい。いってらっしゃい」
挨拶をすると昼休憩を取るためにショップからバッグヤードに下がった。
今日のお昼はなにを食べようかな……。
ついさっきまでは販売成績のことで落ち込んでいたくせに、今では昼食のことで頭がいっぱいになっている私って現金だよね。
そんなことを考えながら五階にある社員食堂に行くためにエレベーターに向かう。そのとき、前方からこちらに足を進めてくる人物に気がついた。
「ああ、ちょうどよかった。キミに用があったんだ」
副社長が白い歯を見せ、微笑みながら声をかけてくる。
「私にですか?」
用っていったいなんだろう?
心あたりがまったくない私は首を傾げる。
「そのペリドットの指輪をはずして、ちょっと俺に見せてほしいんだ」
副社長の視線が、私の右手薬指に移動する。
「……はい」
ハートジュエリーの副社長である彼は、今まで様々なジュエリーを見てきたはずだ。それなのに目立った特徴がないこのペリドットの指輪を見たいと言うのはなぜ?
そう思いつつも、とくに断る理由がなかった私は右手薬指から指輪をはずした。