副社長は甘くて強引
4.強引副社長の社員教育

 翌日の朝、目が覚めた私の脳裏に浮かんだのは『明日俺に同行するように』と『仕事は休んでいい』という副社長のふたつの言葉。

 でも待ち合わせ場所も時間もなにも決めていない。もしかして昨日の出来事は、強引な副社長の気まぐれだったのかもしれない。

 とりあえずいつも通りに出勤をしよう。そして副社長室に行って指輪を返してもらおう。彼がごねたら、人の指輪を勝手にはずして持ち帰ったのは犯罪だ、と脅してやるんだ。

 そう決めるとベッドから起き上がる。

 朝食を取りながらテレビが映し出すワイドショーを見ていると、テーブルの上に置いていたスマートフォンが音を立てた。

「はい、はい」

 相手には聞こえない返事をしつつ、スマートフォンを手に取る。すると、そこには知らないナンバーが表示されていた。

 誰だろう、と思いつつ通話ボタンを押す。

「もしもし?」

『俺だ』

「はい?」

『だから俺だ』

 自分の名を告げずに『俺だ』と言う知り合いは、私にはいない。スマートフォンから聞こえた声を頼りに記憶をたどると、ある人物の顔が頭に浮かんだ。

「もしかして副社長ですか?」

『そうだ』

 やっぱり……。

 オレオレ詐欺のように『俺だ』を繰り返した副社長にあきれ返る。

「それで、なんの用ですか?」

『なんの用って、まさか昨日の出来事を忘れているんじゃないだろうな?』

 昨日は指輪をはずすように言われ、はずした指輪を奪われ、そして俺に同行するように、と言われた。そんなメチャクチャな出来事を忘れるわけがない。

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