副社長は甘くて強引
一日の仕事を終えて家に帰るとバッグからスマートフォンを取り出す。画面に表示させたのは副社長のナンバー。けれど通話ボタンをすぐには押せない。
仕事中だった迷惑かけちゃう。でも昨日のお礼を伝えたい……。
モヤモヤと考えること数分。悩んでいても仕方ない。思いきって電話しよう。そう決意した私は大きく息を吐き出して呼吸を整えると、通話ボタンを押した。
呼び出し音が数回鳴り響く。自分の鼓動も呼び出し音とともにドキドキと高ぶる。
お礼の電話をするだけなのに、なんでこんなに緊張するんだろう……。
スマートフォンを耳にあてながら、そんなことを思った。すると呼び出し音が途切れる。
「も、もしもし!」
緊張のあまり、声が裏返ってしまう。
やだ、恥ずかしい……。
頬に熱が集まるのを実感していると、スマートフォンから留守番電話サービスの音声案内が聞こえてきた。
副社長に裏返った声を聞かれなかったことにホッとしたものの、彼の声を聞くことができなくてガッカリしている自分に気づく。
なんだろう。さっきから私、変だ……。
自分の気持ちに戸惑っていると音声案内が終了し、ピーという音が鳴る。
「もしもし、大橋です。昨日はありがとうございました。副社長のお守りのおかげで早速フォーエバーハートの指輪をお客様に購入していただくことができました。これからも仕事がんばります。それでは失礼します」
メッセージを残すと通話ボタンを押した。
「はぁ、緊張した」
一気に緊張が解けて脱力した私はベッドに体を投げ出す。
副社長はいつ、私のメッセージを聞いてくれるんだろう……。
右手薬指に光るルビーの指輪を見つめながら、彼のことをぼんやりと考えた。