副社長は甘くて強引

 フォーエバーハートの指輪をプレゼントされてからあっという間に一週間が経った。仕事を終えると着替えを済ませ、家に帰るために銀座駅に向かう。

 現在、売り上げは上々。体は疲れているけれど、心は充実感でいっぱいだ。仕事に対してこんなふうに前向きになれたのは久しぶり。明日もがんばろう。

 副社長の社員教育の成果に驚きつつ足を進める。すると背後からいきなり声をかけられた。

「仕事帰りか?」

 振り返った私の目に副社長の姿が映り込む。今日の彼は紺色のスーツにストライプネクタイ姿。オーソドックスな格好もとても似合っていて素敵だ。

「副社長……どうしてこんなところに?」

「社に戻る途中、車からキミの姿が見えた。これからちょっと俺につき合ってくれ」

 副社長はスラックスのポケットに手を入れると、私の脇を颯爽と通りすぎていく。

 思いがけず彼と会えたことはうれしい。でも俺につき合ってくれって、いったいどこに行くつもり?

 急いで彼の後を追う。

「副社長、会社に戻らなくていいんですか?」

「食事したら戻る」

「食事って、私と?」

「そうだ。今日は商談続きで忙しくて昼飯を食いそびれた。腹ペコだ」

「そうですか」

 お昼ご飯を食べそびれてしまったことには同情する。でも彼の口から飛び出した『腹ペコ』という言葉が子どもっぽくてかわいらしい。

< 58 / 116 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop