副社長は甘くて強引
「もしもし」
『俺だ。今どこにいる?』
メールのやり取りはしていたけれど、副社長の声を聞くのは三週間振り。鼓膜を通して聞こえてくる彼の低い声を聞いた途端、感情が高ぶる。
「銀座ですけど、副社長こそ今どこに?」
『さっき香港から羽田に着いたんだ。今から迎えに行く』
副社長が日本に帰ってきたことと、すぐに連絡をくれたこと、そして今から私を迎えに来てくれるという事実に驚く。
「えっ? 今からって、どうして……」
『最下位から脱出できたらご褒美をあげると約束しただろう? 覚えてない?』
タイに出発する前に副社長と交わした約束を、私が忘れるはずがない。しかし今は佐川と一緒にいる。
「もちろん覚えています。でも今は同僚と一緒で……」
佐川のことを『同僚』と言ったのは、ふたりきりで飲んでいることを副社長に知られたくないと思ったから。
『そうか。キミを驚かそうと思って帰国する日をわざと伝えなかったのだが……どうやら裏目に出てしまったようだ』
副社長が今日帰国すると知っていたら、佐川の誘いは受けなかった。
「すみません」
彼に会えないことを残念に思いながら謝る。
『いや。それなら明日、会えないか?』
明日の予定はなにもない。
「はい。大丈夫です」
『そうか。それじゃあ、また連絡する』
「はい」
三週間振りに副社長の声を聞き、明日会う約束をした。それでも心が満たされないのは、帰国した彼に今すぐ会いたいから。
私、副社長のことが好きなんだ……。
彼への思いを自覚する。
通話が終わり少し冷えた体を擦りながらバーのドアを開けて中に入ると、佐川のもとに向かう。