副社長は甘くて強引

「そうか。わかった。気をつけて」

「うん。今日はごちそうさま」

「ああ、じゃあね」

 佐川と別れると銀座駅とは反対方向に進む。

 自分の気持ちを佐川に伝えたほうがいいのかな? でも意を決して好意を寄せていることを示してくれた佐川に、好きな人が別にいるなんて言いづらい。その相手が副社長だなんてとても言えない。きっと佐川を必要以上に傷つけてしまう……。

 悶々(もんもん)としながら足を進めていると、バッグの中のスマートフォンが音を立てる。着信は副社長。トクンと鼓動が跳ね上がる。

「もしもし」

『俺だ』

「どうしたんですか?」

 ついさっき話したばかりなのに、いったいなんの用だろう。

 寒空のもと、耳を澄ませる。

『明日まで待てない。今すぐキミに会いたいんだ』

 副社長も私と同じ気持ちでいたなんて……。

 情熱的な彼の言葉を聞いた私の心拍が激しく乱れて騒ぎだす。

「私も今すぐ副社長に会いたいです」

 彼が好き。この胸いっぱいに広がる思いを伝えたい……。

 感情が高ぶり、スマートフォンを握る手に力がこもる。

『まだ銀座にいるのかな?』

「はい。そうです」

『そうか。わかった。今から向かう。近くに着いたら連絡するから。外は危ないから交差点近くのコーヒーショップに入って待ってて』

「はい」

 通話が終わったスマートフォンを握りながら、副社長に会える喜びを噛みしめる。

 こうしちゃいられない。早くコーヒーショップに行かなくちゃ。

 ここからコーヒーショップまでは徒歩二分。息を白く吐き出しながら夜の街を早足で進んだ。

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