副社長は甘くて強引

 先月十二月の販売成績はリセットされ、今日から新たなノルマ達成に向けて売り上げを伸ばさないとならない。それなのに笑顔は引きつるし、お客様にかける言葉が見つからない。

 こんな状態じゃ、また最下位になっちゃう……。焦れば焦るほど気が動転していくのを実感した。


 一週間続いた初売りセールでは、思うように売り上げを伸ばすことができなかった。ノルマを達成するには、バレンタインギフトを早めに用意しようとする来店客に狙いを定めるしかない。

 甘いものが苦手。そういう男性にアクセサリーをプレゼントしようという女性は意外と多い。ペアリングにペアペンダント、ペアブレスレットなどの商品が売れるのが、バレンタインの特徴だ。

「お先に失礼します」

「お疲れさまです」

 今日は早番。遅番のスタッフに挨拶をするとバッグヤードに下がる。するとこちらに向かって佐川が歩いてくるのが見えた。

 初売りセール中、佐川はいつにも増して忙しそうで、呼び止めることができなかった。でも今なら少し話をしても大丈夫だよね?

 遅番の佐川に声をかける。

「佐川、ちょっといい?」

 私と視線が合った佐川の表情が、みるみるうちに曇りだす。

「ゴメン……。なにも言わずに抜けたから、すぐ戻らないと……」

 こんなに歯切れの悪い佐川は初めてだ。

「もしかして、私のこと避けている?」

「……お疲れさま」

 佐川は私の質問に答えてくれない。

「ちょっと、佐川っ!」

 私の脇を通り過ぎた佐川を背後から呼び止めても、彼の足が止まることはなかった。

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