副社長は甘くて強引

 お父さん、お母さん、ごめんなさい。

 嘘をつき、父親をガッカリさせたうしろめたさを感じながら通話を切った。



 年末年始は誰にも会わず、誰とも話さずに過ごした。

 除夜の鐘を遠くに聞きながらカップそばをすすり、元日にレトルトカレーを食べる。テレビが映し出すお正月番組をぼんやりと見ながらウトウトと昼寝をする。

 そんな絵に描いたような寝正月はあっという間に過ぎ去り、迎えた一月三日。今日は仕事初めで初売りセールの初日。忙しい一日になりそうだ。

 重い体を起すと出社準備に取りかかる。でも肌は荒れているし、髪の毛はパサついて艶がない。

 もう、いいや……。

 適当にメイクをして髪の毛にブラシを通す。

 外は絶対寒いよね……。

 連休中はほぼ布団の中で過ごしていた私にとって、一月の寒さは恐怖以外のなにものでもない。長袖Tシャツの上に厚手のセーターを着込み、デニムのボトムにムートンブーツを履く。コートはもちろんダウンだ。

 オシャレも色気もない格好だけど、どうせ会社に着いたら制服に着替えるからこれでいいよね。

 鏡に映った自分の格好を見て、うんうんとひとりでうなずくと、寒さを覚悟して玄関を開けた。



「おめでとうございます」

 新年にふさわしい明るい笑顔と挨拶で、来店客を迎える。けれど私の気持ちは、どんよりとしたまま。その原因は年末に起きたふたつの出来事のせい。

 副社長とのことは、時が経てば失恋した傷も自然に癒えるはず。問題は佐川のことだ。佐川に押しつけられたネックレスはいつでも返せるように、お財布やポーチなどを入れる社内専用バッグの中に入れた。ショップに立つ佐川に視線を向けると、常連の加藤様を接客中。

 新年初日から、絶好調だな……。

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