結婚前夜
「ひでぇな」

「でしょ? でも、仕方ないのかなって思ったの。確かにいつも彼との約束より仕事を優先していて、彼の気持ちが離れていくのを気づかなかった」

顔を上げた彼女は、遠く何かを思い出すように目を細める。

「仕事も恋愛も、両方手に入れたいって思ってた。私は努力してるから、両方手にできるはずだって思ってたけど、それは独りよがりだったみたい」

「そんなことねぇよ」

「え?」

振り返った彼女と、しっかりと視線を合わす。

「俺は、ちゃんと仕事をしてる子、好きだけど。俺もさ、自分の仕事に誇り持ってやってるし。だから、君みたいに目標持って仕事をしている子はすごくかっこいいと思う」

「あ、ありがとう」

「だから、大丈夫だよ。君なら仕事も恋愛も、きっと手に入れることができる。だってそれだけ綺麗なんだし」

「フフフッ……」

彼女の目が丸くなったと思ったら、柔らかくカーブを描き、可愛らしい笑い声が聞こえてきた。

「俺、何かおかしなこと言った?」

「ううん、全然。それよりも、さっきからずっと私のこと綺麗とか好きとかほめてくれるけど、それって狙って言ってるの? それとも無意識?」

不意に質問をされて、思わず顔が赤くなる。

「赤くなるってことは、無意識?」

意地悪そうな顔を向けても、彼女は美しく、宗介は思わず視線を逸らしてしまう。

ヤバイ。このままずっと彼女といたら、きっと自分の感情を止められない。

でも、もう少しだけ、彼女と一緒にいたい。彼女のことを知りたい。

葛藤する自分の気持ちを押し流すように、宗介は目の前のビールを一気に飲み干した。

宗介がふと右手を動かすと、横にあった彼女の左手が軽く触れ、同時に視線も交わった。

「俺、黒岩宗介。カメラマンやってる」

「大西未来。香月化粧品に勤めてて、今はデパートの店舗にいるわ」

軽く触れている未来の手に自分の手を重ねる。未来は何も言わず、宗介の手を払いのけることもしなかった。

未来の手を握ったまま、宗介は椅子から立ち上がる。

「彼女の分もお会計、一緒にお願いします」

「え? いいわよ、悪いし」

「いいから」

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