結婚前夜
自分の分を払おうとする未来を制し、エレベーターに乗り込む。

部屋に入った瞬間、吸い付かれるように未来の唇へ自分の唇を重ねる。

未来も抵抗することなく、宗介の首に手を回した。

宗介を抑えていた理性が吹っ飛び、そのままふたりはベッドへとなだれ込んだ。


ピピピピピ……

部屋に電子音が響き、宗介は目を開ける。

備え付けの時計が示した時刻は朝の五時。起床予定時刻だった。

昨日目覚ましをセットした覚えがないのに、なぜちゃんと鳴ったんだろう?

疑問に思いながらもベッドから立ち上がると、ヒラリ、と一枚の紙が床に落ちた。

―― 昨日はありがとう。楽しかったです。

「くそっ。完全に間違えたっ!」

起き抜けの頭に、昨夜の記憶が戻ってくる。

さっきまで寝ていたベッドの右端には、人のぬくもりはもう残っていない。

未来とは、一夜限りの関係で終わらせるつもりはなかった。

だからこそ、言ったのだ。

『俺、明日仕事で早いんだ。だから五時に起こしてよ』

『わかった』

そうやって腕の中で微笑んだ彼女の綺麗な髪が、肌が、吐息が、脳裏から離れない。

手紙と共にあるのは一万円札が二枚。

彼女は宗介との関係は、一夜限りと判断したということだ。

こうなるんだったら、昨夜のうちに連絡先を聞いておくべきだった。

宗介は頭を抱えるが、後悔してももう遅い。

確か、未来はデパートに勤務していると言っていたが、そこに行ったところでまともに対応してくれるかどうかはわからない。

それに、宗介も早朝撮影が終わったら、すぐに東京に戻って次の仕事の準備がある。

どうしたらいいものか。

「……あ!」

ふと、昨日の会話を思い出し、宗介は携帯電話を手に取り、アドレス帳から親友の名前を引っ張り出した。

『……なんだよ、こんな朝っぱらから』

「シロっ! 助けてくれ」

『だから、なんだよ』
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