理想の恋じゃないけれど~ホテル・ストーリー~
「ユカさん、お仕事は何をされてるんですか?」
不躾ねと笑って流そうかと思ったけど、相手が真面目に質問してくるので、結花は自分の会社と部署名を教えた。

「なるほど、大手メーカーの経理畑なら、ずっとその会社でお仕事をされるおつもりですか?それとも、結婚後は、お仕事辞めるおつもりですか?」
「ずっと?」
「はい。子供ができてからも、という意味です」

「えっと……それは、まだ考えたことはありませんけど、気が早すぎませんか?」
「そうでもないでしょう。それなりの役職につかれていらっしゃるから、それなりの職歴をお持ちでしょう?」
「そうですけど」要するに若くないでしょうと言いたいのね?結花は下を向いた。
「早くはないと思います」

「ユカさん、ご家族は?」
「両親と弟がいます」
「弟さん。では、ユカさんは、お嫁にいかれるのですね」
「えっと、あなたは?」途中で質問の洪水を止めたくて結花は口を挟んだ。
「田代陽一と申します。もうすぐ34歳になります。ユカさんは?」
「はい?」

「お歳です」私の聞き違い?
気に障ったけど、結花は聞かれた通り答える。
「31歳になります」
「そうですか。思ったより若く見えますね」

「あの!」もう我慢できない。何なのこの人!
「はい。何でしょう?」
「わ、私の名前はユイカです!ユカじゃあありません!」

「これは失礼いたしました。謝ります。結花さん?どうかしましたか?」
「どうしてそんなに、いろいろ私のこと聞くんですか?」
「聞かないとあなたの事が分からないからです」
ツイード男は、悪びれずに言う。
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