理想の恋じゃないけれど~ホテル・ストーリー~
「何をそんなに知りたいんです?」

結花は、いたたまれなくなって、次の座席交換の時に会場から外に出た。
いったいなに?
どうしてそんなに、 根掘り葉掘り私のことを聞くんだろう。

ほとんど食事をとっていないけれど、もう帰ろうかなと思い始めていた。
ロビーを行ったり来たりしてたら、最初に声をかけて来た男が近づいてきた。

「どうかしましたか?」
「いいえ。なんでもありません」
「だいぶしつこく質問されていたでしょう?彼らは相手の事お構いなく、どんどん踏み込んできますからね。困ったものです」
「ええ、そうですね」

「まったく、相手の素性なんて、聞いてどうするんだろうと思いませんか?」
「はあ……」
「深く付き合おうとするから、前のめりになって、自分の立ち位置が分からずに、目の前の相手に、藁をもすがりたい思いで必死になてしまうんですよ。
ほんと嫌なもんです。身の程知らずっていうか、そんな女に誰が捕まるかって」
「えっと……」私も同類だと思われてるの?結花は違うと反論しようとした。

「だって、そうでしょう?ほとんどどんぐりの背比べですよ。その中からどれを選べって言うんです?どれだって同じだと思いませんか?」
「えっと、そこまでは……」
「とくに、あのツイードの男は止めた方がいい。あんなに必死になって。みっともない」
「そんなことはないと」
少なくとも、会場に来た人を見下すよりましだと結花は思った。
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