理想の恋じゃないけれど~ホテル・ストーリー~
「最低ですよ。あんなのに捕まったら来年の今頃、ホテルで結婚式挙げてるかもしれませんよ」
「あなたは?来年の今頃どうしていたいの?」
あまりの言い方に、結花は付き合いきれないと思った。

「それは、今と変わりなく自由にできていたらって思います。間違って誰かにつかまったりしないようにしないと」
「そうですか」じゃあ、何のために高級なスーツなんて着て来たの?と言いかけて、すでに質問しようとする気持さえ、なくしていることに結花は気が付いた。

「そんなことより、食事ろくに食べられなかったでしょう?何か食べませんか?」
「いいえ。結構です」結花は笑って答える。

「どうして?」
「私、あなたからすると、頭がおかしいのかもしれません。これから戻りますから、私はここで失礼します」結花は一礼して、体の向きを変えた。
「ちょっと待ってよ、なんで戻るの?俺たち同じもん同士だろ?」
「でも、私、一年後も何の変化もないのは嫌だな」そうなのかなあ。同じ選択をしたら、同じ結果にしかならないんだね。結花は妙に納得した。

「なに言ってるの?」
「今までと同じように、あなたのような人を選んでると一年後、また同じような状況になるってこと。今まではそれでいいと思ってたけど、来年も一緒っていうのは嫌だなと思って」

「そうかい、残念だな」そのスーツも見掛け倒しね。結花も呟いた。
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